希望のひかり 第8回

更新日:2023年09月29日

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第8回 KEK対談特別号

茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(以下、KEK)は、粒子加速器を用いて、宇宙・生命の謎などを解き明かす研究を行っており、ILC推進の中心的な役割を担っています。小沢昌記市長は4月4日、そのKEKを訪問し、ILCの東北誘致に向けた取り組みについて、鈴木厚人機構長と対談しました。今回は、その概要を紹介します。

若い人を変えるILC

小沢市長(以下、小沢)

ILCができると、まちはどんなふうに変わりますか。

鈴木機構長(以下、鈴木)

欧州原子核研究機構(以下、セルン)にLHC(大型円形加速器)が建設されたことで、ヨーロッパ全体で基礎科学分野に進む大学院生が、20%増加したと言われています。ILCが日本にできた場合も、若い人たちに同じような刺激を与えるものと期待されます。

ILCは顕微鏡で望遠鏡

中央に置かれたテーブルを挟んで座っている小沢奥州市長と鈴木機構長が談笑している写真

小沢

本市において、ILC誘致の機運はかなり盛り上がってきていますが、ILCそのものが何なのか、まだ認知度は低いと思っています。どのように説明したら市民の理解をいただけるのでしょうか。

鈴木

ILCの科学上の重要性に加えて、今、私たちが取り組んでいるのは、日常生活や今後解決しなければならない人類の課題に対し、ILCがどのように貢献できるのか、可能性も含めてリストアップし、絵や写真を挿入した見やすい資料の作成を進めています。これにより、ILCの役割を多角的に紹介するつもりです。ぜひ、利用してください。

小沢

私は、ILCの説明をするとき、人類がこれまで見たことのない「超微細な超刹那的な物」を見る、世界でたった一つしかない顕微鏡をつくると説明しています。そして、ぜひ東北につくってほしいと話しています。

鈴木

世界でたった一つの顕微鏡とは、まさにそのとおりです。さらに、素粒子顕微鏡を駆使して研究を進めていくと、実は宇宙の始まり、現在の宇宙の謎を解き明かす望遠鏡であることがわかりました。ILCは素粒子顕微鏡であり、宇宙望遠鏡なのです。

世界が待ち望む日本の決断

身振り手振りを交え、微笑みながら対談している鈴木機構長の写真

小沢

ILCの国内候補地がことしの7月に一本化されるということですが、今後のポイントはどのようなところでしょうか。

鈴木

去年の7月に、セルンでヒッグス粒子らしき物が見つかり「次はILCだ」という機運が盛り上がりました。そして、世界中の研究者から「ILCは日本に」という期待のメッセージをいただきました。これに応えるためにも、今年の夏ぐらいまでには、国内の候補地を決めなければなりません。さらに、日本学術会議の承認を得ること、ILCプロジェクトの正式な提案書作成、建設までのプロジェクト推進方策など、これらを国内外で早急に詰めることになります。そして、日本が積極的に国際舞台で提案、発議して先導しなければなりません。黙っていては世界がついてきませんので―。
幸い、ILCの国内候補地は、7月までに決定する日程で進めています。また、学術会議との話し合いも開始します。次は、いよいよ日本政府が国際プロジェクトとしてILCをホストする姿勢を鮮明に打ち出すかどうかにかかっています。世界もそれを待ち望んでいます。

目指すのは地域からの開国

身振り手振りを交え、真剣に話をしている小沢市長の写真

小沢

東北にILCができるとなったとき、どのような都市、まちづくりを目指すべきでしょうか。

鈴木

立派な国際都市をつくることをよく耳にしますが、それでは地域の人たちが入りづらい。地域とかけ離れた宇宙都市のようなものをつくるのではなく、現在の地域財産・資源を大いに活用して「外国人を地域に溶け込ませる」日本風の国際地域をつくるべきです。外国人を地元に引き込む、この方が長続きすると思います。和風外国人と洋風日本人が居住する新しい地域、これが日本創成会議(産業界労使や学識者など有志が立ち上げた組織。10年後を見据えた日本のグランドデザインを描き、その実現に向けた戦略を策定)の提言にある「地域からの開国」ではないでしょうか。

小沢

本市では、人口減少に悩んでいます。そういう意味では、立派な古民家をこれからどうしようかと思うような建物がたくさんあります。

鈴木

KEKに来ているリニアコライダーの研究者たちは、研究施設の周辺地域に、グループで民家を借りて住んでいます。長期滞在となると、KEKの宿舎に泊まるよりずっと刺激があり、快適な生活が送れるのです。セルンに滞在している日本人研究者家族も同様で、物価の安いフランスの農村に家を借りて生活しています。

小沢

我々はコンクリートの建物を山ほどつくるなんていうことは考えていないんです。できるだけ、景観を残したいと考えています。

鈴木

外国人も、それを望むと思います。

地元企業への投資が拓く活性化

小沢

ILCの建設、稼働に当たって、地元企業の活性化は、どのように進めるべきでしょうか。

鈴木

リニアコライダー建設の具体的な進め方は、さまざまな選択肢があると思います。例えば、大手企業に投資して装置を製造するのではなく、地元企業に投資し、地元企業と大手企業の集合体で製造、検査、搬入、設置を一貫して行うことなどが考えられます。すでに、KEKが参加している国内大型プロジェクトでは、この手法で成功しています。建設終了後は、地元にリニアコライダー装置の維持・管理や新たな技術・設備移転、事業の展開の道が拓けます。

小沢

ありがとうございました。今後もいろいろとご指導をいただき、ご協力を賜りたいと思っています。

鈴木機構長との対談により、ILCの意義や目指すべきまちづくりの方向性について、改めて確認した小沢市長。今回の対談は、KEKやセルンの実情を踏まえた奥州市独自のまちづくりを考える上で、とても有意義なものとなりました。
7月末の国内候補地一本化に向け、今まさに正念場のとき。市はこれからもILC誘致に向けて、積極的な情報発信を行っていきます。

白髪で眼鏡をかけた鈴木機構長の顔写真

KEK 鈴木厚人 機構長

略歴

  • 1974年 東北大学大学院理学研究科修了(理学博士)
  • 1993年 東北大学理学部教授
  • 1996年 ニュートリノ科学研究センター長
  • 2005年 東北大学副学長
  • 2006年 高エネルギー加速機 研究機構長

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