夢物語 15

禁ノ旨仰渡サレ候ハゝ我ニ於テ仁義不失彼ニ於テモ又イカントモ
致ヘキヤウ無限モ憤モ仕マシク萬事平穩ニ事済可申義ト御存候
文化年中魯西亜ノ使節レサノツハ日本ヘ罷コシ交易願不叶本国ヘ
皈テ申訳ナキヲ難キ自殺仕候ニ付其外下役人ホーレトウ是ヲ恨
ミ憤リ只一艘ノ船ニテ蝦夷ノ騒動ヲ生シ国家許多ノ御物入ヲ奉
掛候此度ノモリソン近ク廣東ニ罷在其上軍艦夥シク支配仕殊ニ
日本近海屬嶌多ク魯西亜レサノフノ類ニテコレ無ク若非法ノ御
取扱有之候ハゝ後来イカナル患害出来候ヤ実以恐ルヘキト存候尚又
此度漂流人ト唱候者船方蠢愚ノ者ニ候ヤ可也ニ文才モコレ在ルモ
ノニ候ヤウ詳何サマ此度モリソンノ罷越候事ハ尋常ノ事トハ不在候
禁制の趣旨を伝えるならば、我が方では仁義の名を失わず、彼においては我が方のいい分に従うよりほかなく、恨むわけにも、腹を立てるわけにもまいりますまい。こうして何事も穏やかに結着することになると考えられます。
文化年中(1804年)、ロシア使節レサノット(レザノフ)が日本に渡来し、交易を願ったものの許されず、本国に帰った後、責任を取って自殺しました。そのため部下のホシーウ(フオストフ)がこれを恨み、たった一艘の船で蝦夷地付近の海上を荒らしまわつて騒動をおこさせ、我が国に大いに損害を与えました。この度のモリソンは、日本からほど遠からぬ広東に滞在し、多数の軍艦を支配している上に、日本近海にイギリスの属島が多数あるので、その勢力はレザノフの比ではありません。
非法の取扱いをすれば、将来どのような災いが生ずるか、思えば実に恐るべきことです。なおまた、この度の漂流民と称する連中は、ただの船乗りなのか、あるいは、かなりの教養の持ち主なのか、この点は明かではありません。しかし何はともあれ、今回モリソンが渡来するということ自体尋常なこととは思われません。
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更新日:2023年09月29日