夢物語 16

更新日:2023年09月29日

ページID: 1363
白い紙に漢字とカタカナで文章が記された夢物語の1枚のページの写真

但シ右申上候トモ古今文明御代明君賢相上ニ在ヨシ宏鴻策被
遊候義ハ申上候迄モコレ無ク候至愚ノ我ヲ不憚其職ニ非スシテ国
家ノ御政事ヲ論スルヤウニ相聞ヘ其罪不軽事ニ候得トモ強テ仰ノ蒙
候事故申上候尤モ是ハ国ヲ忠ニ仕候儀故深ク御咎メ下サルマジト
咄シケルヲ聞ヌル内木柝ノ声ニ驚キ夢覚テミレハ今迄集會ノ席ト
思シハ我寝室ニテ我ニ對スル人モナク燈ノ影イト闇ク鷄ノ声遥ニキコ
ヘ夜モ明ナントスル有様也左思右慮スルニ是ハ醒ニ似テ覚タルニ非ス
夢ニ似テ真ノ夢ニ非ス奇怪不思議ノ事ナレハ筆ヲ採リ覚シ
事トモヲ記シ置ヌ
余天保八年丁酉ノ春ヨリ弘化三年丙牛春ニ至リ

 ただし、このような意見を申し上げたものの、文明の盛んな今日、明君賢相が上におられるのですから、良い策があることは、もちろん言うまでもないことです。身分不相応にも私などが、上をはばからず、その職にあらずして、国家の御政道を論ずるという誤解を招くおそれがあります。たっての御質問ゆえ、申し上げたにすぎません。もっともこれも国を思う真心によったものですから、深くおとがめ下さらぬように願います。」
 以上のような会話を聞いているうちに、とつぜん拍子木の音に驚いて眼を覚まし、辺りを見まわすと、今まで集会の席にいたと思っていたのが、実は我が寝室で、私と向かい合っていた人達もなく、燈がまさに消えかけており、時を告げる鶏の声が遠く聞こえて、夜がもはや明けようとするようすである。あれこれ考えてみるに、夢のようで夢でないような。奇怪で不思議なことなので、記憶をたよりに、筆をとって記録したのが本書である。

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