夢物語 9

更新日:2023年09月29日

ページID: 1516
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高按モ候ハゝ腹蔵ナリ御話シ聞セ下サレ度候乙ノ人曰何様コレニハ深
キ子細モ可有之ヤ其事晴確知シ難リハ候ヘトモ愚意ヲ以テ臆裁
仕候是マテ数十年前ヨリ頻リニ日本ヘ交易ヲ願度趣モ相聞セメテハ
海上通船ノ砌薪水ヲ缺候節ハ右 当ヲモ願度種々工夫仕候ヘトモ元
ヨリ言語文字不通ノ儀故申上願候事モ相成不申且御宥免モ無
之唯イキリスト唱候ヘハ海賊トノミ被思召御取合コレナシ右ノ船国地
ヘ近寄リ候ヘハ有無ノ御沙汰モナク鉄砲等ニテ御打拂ニ相成凡世界中
ニ如 ノ御取扱無之儀イヅレ蘭人私利ノ為ノ申立テイキリスハ海
賊トノミ讒奏仕ル故ノ義ト存ラレ候此度ハ漢文自得仕候者ニ命シ 
罷出候テ右ノ趣拒細ニ訴訟申上候事ト存ラレ候又直ニ罷出候事御取

御意見がおありなら、遠慮のないところを聞かせていただきたいものです。」
乙の人が答えていった。
「おそらくこれには深い理由があるに違いありません。ただしイギリス人に面会して聞いたわけではありませんから、その事情を確実に知ることは困難です。しかし、私はつぎのように推測しております。イギリスは、ここ数十年来、しきりに日本との交易を望み、それが許されない場合には、日本近海を航行中の船が燃料のマキと水を欠乏した場合、その補給に便宜を与えてくれることを望んでいると聞いております。そして、そのためにいろいろ画策したようですが、もちろん言語も文字も通ぜぬため、これらの希望を伝えることができないまま今日にいたりました。ところがわが国では、たとえイギリスの希望が伝えられても、これを許可するはずはなく、ただイギリスといえば海賊であると考えて、取り合うとせず、イギリス船が日本近海に近づけば、有無をいわさず、鉄砲で打ち払うということになっております。およそ世界中で、このような外国船の取り扱いをしている国はありません。これはどうしてかというと、オランダ人が日本貿易の独占を維持しようとして、日本政府にイギリス人は海賊である、と偽りを言ったためだと想像されます。そこでイギリス政府は、今度は漢文に精通したモリソンを日本に派遣して、事のしだいをもらさず、日本政府に訴えようというのが真相でないかと想像されます。また、直接渡来しても相手にされないので、漂流民の送還を名目にしたものと推察されます。また、あらかじめオランダ人に伝言を頼んだということから判断しますと、近く江戸近海に渡来する外国船が、モリソンの指揮する船であることを日本側に通告して、打ち払いをのがれようという考えによるもので、それ以外の理由があるとは考えられません。
また、我が国で唯一の開港である長崎を避けてなぜ江戸近海に船を寄せようとするか、ということですが、先に申し上げましたとおり、乾隆年間の末にイギリスの使節がシナに派遣された、ということがありました。そのさいイギリス使節は、広東の地方役人の妨害を避けるために、皇帝への献上物がことのほか大量なので、広東から陸送することが困難であるという理由で、首都北京の近くの港に船を乗り入れることを願い出て、北京に直行し、皇帝に面会して、広東の役人の悪事を訴えました。

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