夢物語 11

拂ニ可有之ト被存候ハゝ先方ノ者共如何心得可申ヤ乙ノ人曰西洋
諸国ニテハ殊ノ外人民ヲ愛憐仕人命ヲ救候ハ何ヨリ功徳ニ仕事ニテ
既ニ子ヤルカノ都ベンハーカト申所ヘ押寄申候処同都防禦ノ備甚
嚴重ニテイキリス人大ニ敗北仕候節一軍艦石火矢ノ為ニ大ニ破損
仕己ニ覆敗弱死ニ臨ミ候処イキリス人忽ニ一詭計ヲ考出シ船中ニテテ
ー子マルカノ人数十人捕置候間右ノ者差出シ可申候ニ付暫時
砲功見合呉候ヤウ頼入候処チリ子マルカ王是ヲ承リ詭計ト存
ラレシカトモ軍艦殺シ尽シ候トテ始終全ク勝利ト申事ニモナシ若亦其内
一人出共自国ノ者船中ニアルトキハ骨肉ヲ傷リ候義ニ付態ト見合石
火矢ヲ放不申内イキリスノ人軍艦ヲ繕迯去ル由相聞ヘ候右等
になるのでしょう。その場合、イギリス側ではどのような反応を示すでしようか。」
乙の人がこれに答えて言った。
「西洋諸国では、ことのほか人命を尊重し、人命の救助をもって、最高の善行とみなしています。すでに先年デネマルカ(デンマーク)という国と、イギリスが戦争したさい、イギリスの海軍がデネマルカの首都コーペンハーカ(コペンハーゲン)を攻撃したところ、防御施設が堅固なため、イギリス軍が大敗を喫するということがありました。その時、イギリスの軍艦が一艘、砲撃を受けて、大破し、沈没寸前という危機に陥りました。ところがイギリス人は、すぐさま策を思いつき『船中にデネマルカ人数十人の捕虜がいるので、これを引き渡す間、しばらく砲撃を中止されたい。』と申し入れました。デネマルカ王はこの通告に対して、おそらく謀略に違いないと思ったものの、軍艦一艘撃沈したところで、完勝ということにならないし、もしまたその軍艦の中に一人でも自国の兵士がおれば、味方の者を殺すことになるというので、わざと砲撃を中止しました。そうするとイギリス人は、急いで軍艦を修理して逃げ去ったということです。
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更新日:2023年09月29日