夢物語 12

ノ振合ニテ考見候ヘハ西洋ノ風俗ハタトヘ敵船ニ候モ自国ノ者其内ニ
アルトキハ放砲不仕事ニ候然処イキリスハ日本ニ對シ敵国ニモ無之イハゝ
付合モナキ他人ニ候處今漂流人ヲ憐ミ仁義ヲ名トシ態々送来候モノヲ
何事モ取合不申直ニ打拂ニ相成候テハ日本ハ民ヲ不燐不仁ノ国ト存
シ若萬一其不仁不義ヲ憤テ日本近海ニハイキリスノ属嶌夥シク
之在始終通行致候得ハ後来海上ノ寇ヲ相ナシテ海運ノ邪魔相成
候モ難計左候得自然国ノ大患ニモ相成可申ヤ譬右等ノ儀
コレ無トモ右打拂ニ相成候ハゝ理非モ分リ不申異国ヘ對シ不義ノ国
ト申觸レ義国ノ名ヲ失ヒ是ヨリ如何ナル患害萌生仕候ヤモ難計
或ハ頻ニイキリスヲ恐候ヤウニモ考付ラレ候ハゝ国内衰微仕候ヤ
このことなどから判断すると、たとえ敵艦であっても、自国民がその中におれば、みだりに砲撃を加えないというのが、西洋の慣例のように思われます。
ところでイギリスは、日本にとって敵国ではなく、いわば付合いのない他人にすぎません。ですから今、イギリスが日本の漂流民に情をかけ、仁義の名目で、わざわざ送ってくるのを、少しも取り合わずに、ただちに打ち払う、ということになれば、どうでしょうか。きっとイギリス人は、日本は人民を憐れむことの知らない無慈悲な国である、と考えることでしょう。もしまた万一、その不仁不義な行為に腹を立てたということなると、日本近海にイギリスの属島が多数あつて、絶えずイギリス船が在来しているのですから、将来海上において日本船を襲い、海運を妨げるという可能性が十分考えられます。また例えそのようなことがなくても、打払い令を適用すれば、日本は善悪理非のわからぬ暴国であると思い、不義の国であると言いふらすでしょう。そうなると日本は、礼儀国の名を失い、そのためにどのような災いが発生するか、予断を許しません。あるいは、ひたすらイギリスを恐れるあまり、モリソン船を打ち払ったと判断された場合、イギリス側ではこれによって日本の国力が衰弱
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更新日:2023年09月29日