The Cattle Museum
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形態学からみたサル
  毛利俊雄 京都大学霊長類研究所助手

 猿の頭骨を計測して研究を行っています。今日も2つ測りましたが、両方とも若い雄だと思います。一つ一つ見た目はかなり違います。人間もそうですが、一人一人の顔つきとか頭の形とかいろいろあります。形態学でどの集団でこうというためには同じ基準で計って、平均を出して比較する必要があります。ある個体だけ見ますと、個体間では違いが大きいです。厩猿もいくつか計測しましたが、個体数が少ないのでどのようにまとめたらいいのか悩んでいます。今日は、猿の研究所から牛の博物館と言うことで、ニホンザルとウシとが離れて猿がどのように変わったか紹介しようと思いましたが、調べてみますと、ニホンザルとウシの祖先が離れたのは恐竜がいる時代でした。そこで、我々人間とニホンザルがいつ頃分かれたのか話してみたいと思います。年代がでてきますが、免疫遺伝学や遺伝学的な距離で出したものでして、形態の方から年代的なことが言えるということはありません。
 人間の祖先とニホンザルの祖先が別れたのは今から2,500万年前です。ニホンザルの仲間の特徴というのは、尻尾とか尻だことか目立つものがあるんですが、おそらく人間の祖先もそういうものを持っていただろうと思います。2,500万年前のニホンザルの仲間が人間の祖先と別れてから獲得した新しい特徴というの
は、バイロフォドントといいます。日本語に直すと2本の稜がある歯という意味です。大臼歯に横向きの2本の稜が入っています。大臼歯は人間も猿も上下左右3本ずつですから、結局6本の稜が走って、洗濯板のようになっています。このような特徴をニホンザルの仲間は持っています。そのバイロフォドントはいつ進化したかというと、2,500万年前から千数百万年前の間に進化したらしいです。その後、1,200万年くらい前にニホンザルの仲間とコロブスという葉っぱをよく食べる猿の祖先が分かれます。コロブスの特徴は、牛とちょっと似ていて、葉っぱを食べると言うことから胃が複雑な形をしていて大きいです。ニホンザルはと言うと頬袋、頬の内側に袋があります。私は前にニホンザルの飼育をてつだったことがあるのですが、一日分の餌を5分くらいでぱっと頬袋に詰めてしまいます。この頬袋を1,200〜1,300万年前に持つようになったようです。こういうことは全部アフリカで起こったこ
■マカカ属のサルの分布
サルの仲間は主に熱帯から亜熱帯の温かい地域に棲んでいます。しかし、ニホンザルは日本の寒帯に分布しており、青森県下北半島の個体群は、世界で一番北にすむサルとして知られています。
とですが、500万年ぐらい前にユーラシア大陸の方に入ってきまして300万年から200万年前には東南アジアに入ってきます。そして東南アジアから日本に入ってくる訳なんですが、非常に粗雑に、東南アジアでニホンザルに近い仲間と言いますと、インドネシアとか南の方にカニクイザルがいます。中国の南にはアカゲザルがいます。日本列島にニホンザルがいますが、ニホンザルの祖先がカニクイザルのような形をしていただろうと想定しますと、たぶん200万年くらい前から50万年くらい前には日本に入ってきたと思います。熱帯から温帯に来るわけですから、寒さに対応するため体が大きくなります。カニクイザルはしっぽが長いんですが、短くなります。おもしろいことは、熱帯ですとカニクイザルは雄と雌で群れて住んでおり年中繁殖します。雌は発情した個体以外雄を受け入れません。そうすると、カニクイザルの場合、発情雌が季節的に散らばって、雄当たりの数が少なくなりますので、雄が雌をめぐって争う競争が激しくなります。そういうことで、カニクイザルでは犬歯でも体重でも雄と雌の大きさがかなり違っています。ニホンザルの場合は、季節があって秋だけ繁殖しますから発情雌が集中する傾向があり、雄の雌をめぐる競争は緩和されるので、体は大きくなっているのに、体重や犬歯の大きさなどの性差は小さくなっています。日本の中で細かく調べれば地域差があるんですが、アカゲザルやカニクイザルと比べますと形態的にはよく似た猿として日本にニホンザルが暮らしています。
 

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