The Cattle Museum
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厩猿合同調査に参加して

 前沢町古城での厩猿発見の情報が新聞で報道されたところ、その影響は大きく、同じ古城地区の方や胆沢町、藤沢町、それに宮城県北部からも厩猿の情報が牛の博物館に寄せられました。そこで、京都大学霊長類研究所共同研究員の中村民彦先生をはじめとする厩猿の研究グループに情報を提供し、合同調査に参加する機会を得ました。調査は、友の会シンポジウムの前後に実施され、民俗学の中村先生と三戸先生による聞き取り調査、形態学の毛利先生による計測、遺伝学の川本先生によるサンプルの採取などに立ち会うことが出来ました。
 厩猿信仰は、今では見られなくなってしまった古い信仰であり、その祀りかたやサルの入手先など、詳細は持ち主の方でもすでにわからなくなっていました。しかし、今回の調査で岩手県南地方でも厩猿信仰が行われていたことが明らかになりました。胆沢町の於呂閇志胆沢川神社ではかつて猿の姿を描いた牛馬安全札が出されており、馬だけでなく牛にも厩猿信仰が関わってきています。西日本など牛の飼育が盛んだった地方では猿の頭蓋骨が牛神様と呼ばれて信仰されています。中村先生は岩手県北部の山形村でも厩猿を確認しており、厩猿信仰と南部牛との関わりにも興味がもたれます。また、猿の頭蓋骨は、牛馬の守り神、馬を鎮める、防火、薬用などに用いられるものが多く、猿の手は安産と豊作に関するものが多いなど、その口承も様々です。前沢町古城の事例では、庚申信仰の講が現在も行われており、それとの関係なども配慮する必要があるようです。
 最近、前沢町内から厩猿信仰に用いられたと思われる猿の手が新たに発見され、千厩町からも猿の人
形が祀屋に祀られている事例の情報が牛の博物館に寄せられています。こうしてみると、厩猿信仰は、かつて広く一般的に行われていたのかもしれません。また、こうした信仰は、公にせずに家督にのみ伝承されている場合もあり、形を変えて現代に継承されているものもあると思われます。
 厩猿の合同調査は、今後も継続して実施される予定です。京都大学霊長類研究所の先生方の研究成果に期待すると共に、機会があれば、また参加させていただき、牛馬の守護神としての厩猿について調べてみたいと考えています。(Ke)
ごあいさつ 東北地方の厩猿信仰 サルと人の関わり 形態学からみたサル 遺伝学と厩猿