福嶋圭次郎(ふくしま けいじろう)さん

福嶋圭次郎さん

出身地:神奈川県横浜市

移住時期:2019年7月

職業:合同会社 福嶋圭次郎 (楽器メーカー kgr harmony) 代表

神奈川県横浜市から単身Iターン。奥州市どころか、岩手のこともほとんど知らなかった福嶋さん。

日本各地を旅する途中で、南部鉄器と株式会社及富(おいとみ)に出会い、それが人生の大きな転機となります。現在は南部鉄器製のエフェクター※を作り、自身の会社で販売する事業を立ち上げました。

(※エレキギターなどの楽器とアンプの間に繋いで、音色に変化を与える機材)

奥州市へ移住を決めるまでの出来事

「中学校の文化祭でベースを演奏したのがきっかけで、楽器に興味をもちました。演奏よりも音の追求や楽器を作ることに情熱を費やしていましたね。大学時代に自作のエフェクターをアメリカに持って行って紹介した経験が、いつか自分のブランドで楽器を作って売ってみたいと思うきっかけになりました。

大学卒業後は、楽器屋でアルバイトもしましたが、その後は実家の家業を手伝うなど、楽器のことから離れていて、自分で事業をやろうとは全く考えていませんでした。」

南部鉄器の存在も知らなかった福嶋さんですが、楽器製作の経験から、鉄や金属に関心をもっていました。そのためか、たまたま見ていたテレビで紹介されていた南部鉄器が気になり、いつか岩手に行ったら工房を訪ねてみたいと思っていたそうです。

2019年の春、それまであまり出たことのなかった地元横浜を飛び出し、心機一転、自分の新しい居場所を探す旅に出ます。北海道から南下していく途中、岩手に入り念願だった南部鉄器を見るために、まずは盛岡の工房を何軒か訪ねました。そこで奥州市水沢にも産地があることを知り、翌日には水沢羽田町へ。最初に訪れたのが老舗の工房、株式会社及富(おいとみ)でした。

福嶋圭次郎さん

「その日はたまたま、“吹き"と呼ばれる、溶かした鉄を型に流し込む作業の日でした。

アポなしで来て、偶然その日に見学させてもらえたんです。その時にとってもこう・・・簡単に言うと、興奮しました。人間味があるっているか、職人さんとの距離がすごく近くて。

ここだったら、自分の想いをちゃんと受け止めてくれるんじゃないかって、初めて自分が楽器を製作していることを話したら、じゃあ、うちで一緒に作ってみようかってお話をいただいて。

自分の居場所も仕事も本当にゼロからのスタートなのに、拾ってくれる人がいるんだって。そんな環境に巡り会えたっていうのは、本当に奇跡だなって思います。

あと水沢羽田町は本当に鋳物の街で、工房が集約して立ち並んでいる、そういうミニマムな感じもすごく魅力に感じましたね。」

いざ移住を決めてから

福嶋圭次郎さん

やることが決まっていたので、引っ越し準備は約一週間。

「そのうちにアパートを決めたり、お借りする作業場を整えたり。製造でお世話になる及富さんの社長と専務に自分のしたいことを改めて説明したりで、あっという間でした。

結局、及富さんの従業員のお知り合いのアパートを借りられることになって。地元ならではの横のつながりに助けられました。

2019年の7月に移住しましたが、その年内に試作を完成させて販売をスタートできる体制にするという目標があったので、とにかくそれに集中しました。毎日工房に顔を出して、職人さんたちに南部鉄器の製造工程を見せてもらったり、こんなのを作りたいんですって相談をしたり。」

エフェクター製造の試行錯誤が続いた上、自身の会社設立、クラウドファンディングと、振り返れば一気に詰め込みすぎたと笑いながら振り返る福嶋さん。

岩手や奥州市の印象

「夢を追うとか、何かをやりたいと思っている人に対しての支援がものすごいあるなと思います。

岩手イノベーションベース(IIB)で起業支援を受けることができたし、周りの人達もすごく応援してくれているなって感じます。クラウドファンディングの時には、及富さんの従業員のお友達が写真や動画を撮ってくださったりもしました。

土地柄、移住者にものすごく注目してくれるっていうこともあって、僕としてはコンテンツというか、強みになると思っています。目的をもって移住してきた人という面でも注目してもらえるので、色々なメディアで取り上げてもらったり。今ではありがたいことに奥州市のふるさと納税でも商品を取り扱っていただいています。」

福嶋圭次郎さん

Q. 食べ物はどうですか?

いや、本当にうまいです。

こっちにきて初めて冷麺を食べて、うまい!って毎日のように食べていました。

お昼に焼肉と冷麺をセットで食べる機会も多くて、気づいたら一時期は体重が増えてしまいました(笑)

Q. 冬の寒さは大丈夫でしたか?

移住して2年目のときに大雪が降って、すごく寒いなとは思いましたが、嫌だとは思わなかったです。そういうものだと受け止められました。

今後の活動について

福嶋圭次郎さん

「最近、同じく奥州市の伝統工芸品・岩谷堂箪笥(いわやどうたんす)の素材で作る、エフェクターボード(エフェクターの持ち運び・保管に使用するケース)も開発中です。アンプやギター本体、装飾なども含め、鉄器だけではなく、色々な伝統工芸や岩手の素材を生かした楽器も作りたいですね。

ただ市場に合わせるのではなくて、自分の作ったものに合う市場を探すっていうのも、すごく大事だと思っています。あえて非効率なことをこだわりとしてやっている部分もあるので、国内外問わず、自分のスタイルと地域性を合わせた価値を理解してくれる場所に、より一層売りこみたい。

これだけ尖っているものは他にないって自負しています。ある程度特別な場所で、ちゃんと説明できる場所で売らないとって、最近強く思います。」

新しいことにチャレンジしようとする方々へ、メッセージ

「起業とか大きなイベントを仕掛けるとか、急に背伸びしてやろうとするのではなく、自分の意欲のある分だけ、何か少しずつやってみればいいと思います。大きなことができないから何もしない、というのはもったいない。気持ちが変わったら辞めてもいいし、これはやりがいがあるな、と思えれば、その気持ちが上がった分だけプラスアルファの行動をしていけばいい。

地域の活性とか、自分が生き生きと働くって意味では、起業するのも一つの手段だと思っています。これからチャレンジしようとする人たちの背中を押してあげられるとすれば、自分がやりたいことをやりつつ、ちゃんと生計が立てられて、幸せそうにしているっていうのを見せたいですね。

福嶋圭次郎さん

本当に僕は、岩手に来れてよかったと思っています。岩手や奥州市に来て、人生が変わった。

横浜にいたときはゼロだったものが、今ではどんどん手にできているというか。

新しいステップをどんどん登っているなって実感しています。」

縁もゆかりもなかった新天地で、自らの手で新しい人生を切り開いた福嶋さん。

今後もますます、地域に大きな化学変化を起こしてくれそうです。

取材:2022年7月