上岡康一郎・美帆(うえおか こういちろう・みほ)さん

ご夫婦ともに田舎暮らしに憧れがあったという康一郎さんと美帆さん。妊娠をきっかけに美帆さんの故郷・奥州市への移住を決め「いつか田舎暮らしがしたい」という夢を叶えました。とはいえ、不安いっぱいの田舎暮らし・・・。

けれど、始めてみたら、やりたいことがどんどん見つかり、楽しい毎日を送っているというご家族3人の「理想の田舎暮らし」についてお伺いしました。

上岡康一郎・美帆さん
出身地:
康一郎さん 大阪府和泉市(Iターン)
帆さん 岩手県奥州市(Uターン)
優太郎くん 岩手県奥州市
移住時期:
2023年2月
職業:
康一郎さん 古着・古家具のネット販売
帆さん 会社員

移住するまでのプロセス

■なぜ田舎暮らしに興味をもったのですか?

【康一郎さん】広々とした環境で生活がしたいと思っていたので、東京の暮らしは人が多く、何か違うなと感じていました。東京にいても、登山をしたり、公園に行ったりと自然の中にいる方が心地よく、興味があるのは、モノづくりや古民家改装、畑などで、田舎暮らしをしている知人も多かったです。生まれ育った所は、大阪都心のベットタウンで、人も多かったですが、子どもの頃は、父が自然の中に連れ出してくれることも多く、そこから田舎暮らしへの憧れが生まれたのかもしれません。

上岡康一郎・美帆さん

【美帆さん】上京した頃は「やりたい仕事は東京にしかない」と思っていて、都会への憧れや刺激を求める時期もありましたが、今は静かなところが良いと感じています。

【康一郎さん】とはいえ、田舎暮らしのイメージは漠然としていて、「田舎に移住したら農業するしかない」と思っていたくらいです。移住する1年前は、まだまだ先の話で、かなりハードルが高く、夢のような話だと思っていました。

■そんな中、田舎暮らしが現実に!? 奥州市を選んだ理由は?

【康一郎さん】奥州市には妻の実家があり、以前からずっと帰りたいという話をしていました。ただ、やりたい仕事が東京でしかできないと思っていたので、難しいと思っていました。

実際、田舎暮らしを考え始めた頃は、通勤できる範囲の奥多摩などで物件を探していて、通勤時間は片道2時間くらいでしたが、できなくはないなと…。

ところが、妻が妊娠し、「(美帆さんの)地元で子育てしたい」という二人の強い思いから、妻が勤務先にテレワークの希望を出したところ、承諾され、奥州市への移住が現実的になりました。

正直、不安しかありませんでしたが、私の仕事も続けられる目処が立ち、結果的には良いタイミングで移住できたと思います。何より、義父母と義兄姉のサポートがかなり手厚く、何かと助けてもらっています。

■移住前、奥州市にはどんなイメージがありましたか?

【康一郎さん】移住前は、コロナ禍で移動が難しく、奥州市へ来たのは1度だけでした。しかも年末年始の雪が降る寒い時で、観光もできず、奥州市について知ることができませんでした。生まれ育った環境とも違うし、移住直前になってもなかなか生活が想像できず、実は引っ越してからもしばらくは不安でした。それでも「ここは自分の理想が叶う土地なのかな」と漠然とは感じていました。

【美帆さん】上京前は、情報が少なく、まちのことが全然わからなかったです。高校生までしかいなかったので、今、奥州市の魅力を再発見しています。

■いざ、引越し!!

【康一郎さん】妻のテレワークが決まり、6カ月ほどで準備をしました。

インターネットでの住まい探しに行き詰まっていたところ、義姉から「いわてお試し居住体験」の情報をもらいました。情報をもらった時には、すでに空きが少なく、大急ぎで申し込みました。

引越スケジュールが決まってからは、複数の引越し業者に見積もりを依頼し、一番安い業者に頼みました。業者によって値段が全然ちがうので、見積もりは大事だと思いました。

また、移住後すぐに車が必要になるだろうと、義父母が移住前に準備をしてくれていたので、すぐ車を使うことができて本当に助かりました。

■利用した支援制度について教えてください。

【康一郎さん】「いわてお試し居住体験」と「奥州市移住支援補助金」を利用しました。

お試し居住は、初期費用が0円、家電レンタルもあり、家賃は月1万円と、とても助かりました。さらに、Wi-Fiも無料で利用でき、住み始めてからすぐ使えたのは本当にありがたかったです。自分達で契約する場合、工事の立ち会いが必要だったり、使えるまでに数日かかったりしますから。

間取りは3DK、きれいで広く、住み心地がよかったです。ただ、事前に内覧もできず、写真も見られず、すごく心配でした。10回ぐらい問い合わせたと思います。

上岡康一郎・美帆さん

入居日は妻の転院や仕事のスケジュールに合わせて調整ができ、申し込みから3カ月程で入居しました。

日常利用するスーパーが近く、周辺の環境が良かったです。何より風景が良く、朝のランニングが日課になりました。渡り鳥や田園風景は今まで見たことのない風景でした。ランニングなんて続いたことがありませんでしたが、WBCでの大谷選手(奥州市出身)の活躍に感化され、応援するつもりで毎日走っていました。

また、お試し居住を利用していた数か月間は、地域の集まりなどにも参加しました。東京でも団地で暮らしていましたが、こういった繋がりはなかったので、新鮮でした。自分たちで地域を作っている感じが良かったです。

『いわてお試し居住体験事業(県外からの移住定住希望者に家電付県営住宅を低廉な家賃でお貸しします)』

【美帆さん】支援金についても、私の家族から聞いて、申請しました。移住直後は収入が不安定だったので、とても安心できました。

『奥州市移住支援補助金』

■あったら良いと思う支援制度はありますか?

【美帆さん】引っ越してすぐに、役所の手続きなどで利用できる1日タクシー利用券があるとすごく助かるなと思いました。

【康一郎さん】土地勘がないと車の運転も大変だし、公共交通機関の利用はハードルが高い気がします。私たちは、去年の冬に引越してきたのですが、雪道の運転がまだ怖く外出できない日もありました。

私は、奥州市での生活が想像できないまま移住してきたので、実際に生活し、先輩移住者の話が聞ける、1~2週間の短期お試し居住があれば、生活を想像しやすかったと思います。

移住後の生活について

■奥州市での生活はどうですか?今までの暮らしとの違いは?

上岡康一郎・美帆さん

【康一郎さん】今まで住んでいたところの中で一番便利だと感じています。

移住する前は、全然生活が想像できず、仕事も不安でしたが、実際に生活してみると、思っていたより田舎じゃないし、やりたいことがどんどん見つかって毎日楽しいです。

食べ物も安くておいしいですね。産直の品揃えがよく、山菜のわらびやばっけ(ふきのとう)、三陸のほやを初めて食べました。それに、岩手の食材だけで食卓が完結することに驚きました。今までは、色々な産地の食材を食べていましたが、これが「地産地消」なんだと感動しました。それに、昔ながらのパン屋さんがたくさんあって、しかも安くておいしい。大阪から母が来たとき、とても驚いていました。あと、こちらに来て車を持ちましたが、子育て中は特に便利だと感じます。時間も人も気にしなくてよいですし、行きたいところに行きたいタイミングで行けます。

【美帆さん】おいしいものがたくさんありますが、私はやっぱり、毎日食べる奥州市産のお米がおいしいとしみじみ感じています。

食品など普段の買い物で困ることはありませんが、洋服などは買うところが少なく、ネットショッピングが増えました。東京にいた頃は街に出れば流行を掴めましたが、今はネットで情報を集めています。けれど、最近、おしゃれな古着屋さんを見つけたりして、探せば意外とありますね。もっと色々探してみたいと思います。

■お住まいについては?

【康一郎さん】移住後数カ月はお試し居住制度を利用し、その間にインターネットでゆっくり物件を探しました。中古物件の購入も考えましたが、今は戸建ての借家に住んでいます。今住んでいる物件は、家賃は予算オーバー、間取りも広すぎて当初は迷いましたが、義母の後押しもあり決めました。そのおかげで、仕事の幅が広がり良かったです。東京に比べたら格段に広くて家賃が安いです。けれど、広い家はハウスクリーニング代が高額なので要注意ですね。それと、戸建てなので、雪かきが心配です。去年は本格的な雪かきをしませんでしたから。

■仕事の変化は?

上岡康一郎・美帆さん

【康一郎さん】移住前と変わらず、大学時代に始めた古着のネット販売を続けています。現在は、安い家賃で広いスペースを手に入れたので、在庫を増やし、古家具の販売も始めました。ずっと東京でしかできないと思っていたし、移住前後はとても不安でしたが、こちらに来てからの方がうまくいっています。

東京にいた頃は限られたスペースで、在庫数も増やせず、騒音の問題もあり、モノづくりはできませんでした。今は簡単なDIYや家具の手入れがとても楽しいです。

【美帆さん】実は元々、勤め先にテレワーク制度はなく、チャンスをうかがっていました。テレワーク後は、仕事の内容などは変わりませんが、通勤時間がなくなり、休憩時間の使い方も自由になり、ストレスがなくなりました。以前より自分のペースで仕事ができるようになったと思います。ただ、一人でモノづくりをするので、気持ちを保つのは少し大変です。会社とのコミュニケーションもしっかり取らなくてはいけないので、こまめに連絡を取っています。

■休日は何をして過ごしていますか?

【康一郎さん】妻の実家へ行くことが多いです。義父母は地元情報にとても詳しく、なんでも教えてくれます。一緒に県内の観光スポットを巡ったり、イベントに行くこともあります。みちのく民俗村(北上市)のきれっこ市や紫波町のぶどう狩りに行ったりしました。岩手は、県内の移動がしやすく、近隣の市町村が身近だなと感じます。

もちろん、市内のスポットやイベントにも毎週のように行っています。伝統工芸の南部鉄器が好きで、及源鋳造のファクトリーショップによく行きますし、南部鉄器まつり(毎年9月ごろ開催)では揚げ鍋を買いました。あと、ふれあいの丘公園の綺麗な芝に感動し、衣川ふるさと自然塾で開催された森林体験イベントもとても楽しかったです。奥州市は、便利な市街地もありながら、車で30分くらいで、森やキャンプ場にも行けることがとても嬉しいです。子どもの頃、私が父にしてもらったように、子どもにもたくさん自然体験をさせたいです。

■奥州市での出産・子育てについて

上岡康一郎・美帆さん

【美帆さん】妊娠中期に奥州市へきましたが、東京での子育ては厳しいと思っていました。支援制度も知らなくて、妊娠中の満員電車やバスも辛く不安でした。けれど、ここでは、赤ちゃんを連れているだけでたくさん声をかけてくれて「子どもは宝だから」と言ってくれる人もいました。すごく歓迎されているなと感じます。

ただ出産までは、市内に産院がないので、車で片道40分ほどの通院が大変でした。出産予定日が近くなり、産まれるかもしれないと病院に行きましたが、結局違って帰ってきたことがあり、緊急時に対応してくれる病院があればと思いました。せめて連携している病院が近くにあれば、もう少し安心できる気がします。

その他、車の運転に慣れていない私たちにとって、市から交付される妊産婦タクシー助成券はとても便利でした。ママと子どものケアや育児サポートをしてくれる産後ケアも充実していると感じました。子育て支援センターも良く利用しますが、職員さんは親身になって体験談やアドバイスをしてくれて、ネットの情報より参考になっています。

【康一郎さん】転入時に保健師さんが、子育て支援についてとても丁寧に説明してくれたのが、印象的でした。出産関連の支援金も充実しているし、すごく歓迎されていると感じました。実際に子育てが始まってからも、産後ケア事業や気軽に行ける子育て支援センターがあり、子育てしやすい環境だと感じています。駒形こどもの杜子育て支援センターで開催されている1歳までの赤ちゃん(お誕生日月まで)を対象とした「ベビーズのんたん」で毎月、足形・身長・体重・写真をとって、成長記録ファイルを作くるのがとても楽しいです。

【美帆さん】来年は保育園へ預ける予定で保活も始めました。今のところ、10か所ほど見学に行きましたが、ゆっくり時間をかけて、希望に合った保育園が見つけられそうです。

園によって先生や子どもたちの雰囲気が全然違っていたので、自分たちにあった保育園を見つけたいと思います。

奥州市子育て支援サイト「おうしゅう子育てガイド」

奥州市で暮らして思うこと

■奥州市で実現したこと、これからやってみたいことは?

上岡康一郎・美帆さん

【康一郎さん】東京にいた頃、狩猟に興味を持ち、最近、わな猟の免許を取得しました。先日交付式があり、11月には狩猟解禁されるので、早速挑戦したいです。

それから、種山の「星座の森」でキャンプをしたいです。登山もしたいし、夏は川遊びもしたい。これから子どもとたくさん自然体験するのが楽しみです。ただ、熊には気をつけなくてはいけないなと思っています。

今は借家ですが、いずれは自分たちの家を持ちたいと思っています。もう少し田舎のほうに空き家を買って、リノベーションして、理想の家で暮らしたいです。東京にいた頃の知り合いに大工さんもいるので、こちらに呼んで何かできたら楽しいですね。

【美帆さん】庭に畑があるので、少しずつ始めていきたいです。それに、のんびり子育てしていけたらなと思っています。

あとは、モノ作りが好きなので、ワークショップもやってみたいですね。

■康一郎さん、美帆さんが思う奥州市とは?

【美帆さん】離れた頃は、地元の魅力をあまり分かっていませんでしたが、東京で約10年過ごし戻ってみると、自然豊かで静か、ゆったり過ごせる公園があり、夜はたくさんの星が見え、良いところばかりだと気付きました。子どもの頃、親に山や川など自然の中によく連れて行ってもらったことを思い出し、忘れていただけだったなと思いました。東京はなんでも揃っていて、刺激的で楽しいですが、どこに行っても人が多く、人疲れすることもありました。岩手の大きい空に、広大な土地…のんびりと過ごせて気持ちにも余裕ができた気がします。子育ての為に引っ越してきましたが、私たち夫婦にとってもとても良い環境だと思います。

【康一郎さん】移住前は様々な不安がありましたが、今はやりたいことが溢れ、楽しみばかりで、自分のやりたいこととこの土地がマッチしていると強く感じます。ここでしかできないことがたくさんあると思います。大阪や東京では難しいことも、ここではできると思えるし、実際に形になってきていることもあります。これからも奥州市で自分たちの理想の暮らしを実現していきたいと思っています。

移住を検討されている方へ一言お願いします!

自然や広々とした環境が好き、広い土地や家を使って何かしたい方などにとって、奥州市はとても良い環境だと思います。自然の中でしかできないこともたくさんあり、安い家賃で、広いスペースを持てるとできることが広がります(家賃が安いことが一番嬉しい)。

上岡康一郎・美帆さん

それに、思っていたより田舎ではなく、移住のハードルが低いと感じました。暮らしで困ることはないし、空港や新幹線などがあって、交通の便もよいです。市街地は便利だけれど、車で2、30分行けば自然があり、まさに、便利な田舎という感じです。

子育てが始まると暮らしが変わってくるので、そういったタイミングの人にとって、とても良いのではないかと思います。本当に移住して良かったなと感じています。

お試し居住体験など、便利な支援制度を活用して、まずは、その土地の良さを感じてみるのもいいのではないでしょうか。

取材 2023年10月