橘 直輝(たちばな なおき)・晃子(あきこ)さん

直輝さんの転勤を機に、縁もゆかりもなかった奥州市に住むことになった橘さんご家族。

度々、出張で奥州市を訪れていた直輝さんは何となく生活のイメージができていたそうですが、一方の晃子さんは、奥州市のことが分からず、不安を抱えていました。

そんな奥州市での暮らしも、間もなく7年目を迎えるそうで、これまでの暮らしを振り返っていただきました。

橘直輝・晃子さん
出身地
:直輝さん 北海道函館市(Iターン)
晃子さん 神奈川県横浜市(Iターン)
移住時期
:2019年10月
職業
:直輝さん 会社員
晃子さん パート勤務
家族構成
:4人(ご夫婦とお子さん二人)

移住のきっかけは?

直輝さん:会社の人事異動があり、家族で奥州市へ移住しました。

勤めている会社は、神奈川県に本社や開発拠点があり、営業所は全国各地にあります。装置の製造工場は1カ所で、奥州市の江刺中核工業団地にあります。

当時、開発拠点である神奈川県で装置の開発に携わっており、新しく、大きな装置を開発・設計し、製造を開始するタイミングで、開発者としてしっかり現場の立ち上げに関わることになり、転勤が決まりました。

転勤が決まったときの心境は?

直輝さん:それまでにも、新しい装置の製造を開始する際には、その都度、奥州市の工場へ出張していましたが、転勤までは考えていませんでした。転勤のきっかけになった装置を開発した時に、何度かそれらしい話があり、特別行けない理由もなかったので、辞令を受けたという感じです。家族としては、突然に感じたかもしれませんが、子どもも小さかったので、単身赴任は考えておらず、家族で引っ越すことに迷いはありませんでした。

当時の奥州市の印象は?

<直輝さんの印象>

装置の製造工場は、奥州市にしかなく、転勤先としては奥州市しか選択肢はありませんでしたが、出張先のひとつということぐらいで、正直特別な印象はありませんでした。けれど、何度も出張で来ていて、気温や季節ごとの生活のイメージが出来たので、問題なく生活できそうだなと思っていました。出身が北海道なので、冬の生活のイメージもしやすかったのかもしれません。

<晃子さんの印象>

学生時代にインターンシップで一関市へ来て、その時に平泉あたりの観光をしたことがありました。けれど、それきり岩手県との接点はありませんでした。

主人の正式な辞令が出たのは異動の1ヶ月前で、それから奥州市のことをインターネットで調べたりしましたが、その間、実際に来られたのは2回だけでしたし、最終的には、どんなところかあまりわからないまま来た感じです。

移住前の生活は?

橘直輝・晃子さん

直輝さん:独身時代も含め、仕事が忙しく、夜中の0時や1時に帰ることも多かったです。しかも通勤は電車で片道2時間かかっていました。ある程度、それが当たり前になっていましたが、今は、18時に終わって、18時半には帰宅しています。

晃子さん:19時に「帰るよ」と連絡がきて、帰ってくるのは21時過ぎで、まだ子どもが小さく、いつ帰ってくるのかいつも心配でした。「帰るよ」の連絡から、実際に帰ってくるのが2時間後か30分後かでは大違いです。

移住の準備はどんなことからはじめましたか?

直輝さん・晃子さん:異動が決まって、1ヶ月ほどで物件探しや情報収集などをしました。基本的に、自分たちで好きな住まいを探してよいことになっていましたが、土地勘がないので、会社が提携している不動産屋さんに希望を伝え、いくつか紹介してもらいました。「間取りは3LDK、徒歩で通勤・通学・買い物ができる場所、子どもが小さいので戸建て」を希望しましたが、なかなか希望に合う物件は見つからず、間取りを優先すると会社から距離のある集合住宅で、戸建てや立地が良い物件は間取りが狭いといった感じでした。最終的には、間取りを諦め、立地の良い戸建の物件を選びました。内覧のチャンスは2回だけでしたので、正直勢いで決めたところもありました。

橘直輝・晃子さん

直輝さん:特に会社から転勤先の地域情報などの提供はありませんでしたし、当時、お隣の北上市や奥州市内の別の地域の物件も紹介されましたが、地域のことが全然わからず、住むエリアとして考えづらかったです。水沢江刺駅から工場までは何度も行き来していたので、このあたりのことは何となくわかっていて、選びやすかったと思います。

晃子さん:小さい子どもを連れての引っ越しは大変だったと思い出しました。自宅周辺について、ある程度は、インターネットで情報収集できたので、引っ越す前に地図をみながら、病院やスーパー、学校や市役所などの場所を調べました。実際に来てからは、色んな所を歩き回って、少しずつ地域を知っていきました。生活をはじめてみたら、徒歩圏内にすべて揃っていて、とても便利な場所でした。実際、車が必須の地域ですが、職場へも学校へも歩いて行けるので、今でも車1台で十分生活できています。

当時、一番譲れない条件は「戸建て」だったのですが、やはり戸建てにしてよかったと思っています。家族が増え、にぎやかになりましたが、安心して暮らせています。

あとは、間取りが3LDK以上だったら、言うことなしです。この辺に、3LDK以上の戸建ての賃貸物件ができることを切望しています。

移住後はどのように生活が変わりましたか?

橘直輝・晃子さん

晃子さん:今まで雪とは無縁の地域に住んでいたので、雪道の運転や雪かきは初めてでした。引っ越してきた最初の冬は雪が全然降らなかったので、このくらいなら問題ないなと感じましたが、翌年の冬は信じられないくらい雪が降って、これは大変だと思いました。しかも、ちょうど二人目を妊娠していて、北上市まで通院していたので、本当に大変でした。雪の量や気温など冬の暮らしについては事前に調べてくるべきだったと感じています。あまり調べずにきてしまったのは失敗でした。

その後、2年目の降雪量が例年よりかなり多かったことを知って安心しましたが、雪かきや雪道の運転に慣れるまで、もう少しかかりそうです。でも、主人が雪国出身なので、冬の生活には慣れていて、大変さは和らげてくれていると思います。

直輝さん:雪道の運転は問題ないですし、雪かきは大変ですが、子どもたちが喜んで雪遊びをしているので、雪山づくりも頑張れます。

晃子さん:それに、始めは知り合いがいなかったこともとても不安でした。でも、子育て支援センターを利用するようになって、生活が変わりました。神奈川県にいた頃は、子どもとお母さん達が交流する場所があまり身近になく、月に1回程度、地域の同年代の子が集まるイベントがあるくらいでした。子どもが遊べる場所はたくさんありましたが、有料だったり、商業施設内だったり、気軽に利用できる感じではありませんでした。

市役所で子育て支援情報誌「こっころだより」をもらって、奥州市にはこんなに遊べる施設があるのかと驚きました。子どもと二人、毎日どうしようと、公園に行ったりしましたが、子育て支援センターが一番安心して楽しく過ごせました。無料で利用できて、大人も子ども色々な体験ができたり、イベントがあったり、子どもが幼稚園に上がるまで毎日のように通っていました。

支援センターの先生や通っているお母さんたちが、○○はここにあるとか、○○に行くといいよとか、今年は雪が多そうとか少なそうとか、地域の情報をたくさん教えてくれました。困ったときはいつも助けてくれて、本当にありがたかったです。子どもも私も気の合うお友達ができて、今でも交流が続いています。

橘直輝・晃子さん

直輝さん:土曜日には、家族みんなで支援センターに行くことも多かったです。お父さんが来ているご家庭は少なく、お父さん同士の繋がりはあまりできなかったですが、平日、妻と子どもたちがどんなふうに過ごしているのかを知って、何より安心して仕事に集中できました。正直、地元のコミュニティは繋がりが強く、少し入りづらいと感じることがありますが、妻も子どもたちもここでの生活を存分に楽しんでいて嬉しく思っています。

子育て支援情報誌「こっころだより」

直輝さん:住まいは、神奈川にいた頃と同じくらいの広さですが、家賃は半分以下で、駐車場も2台分ついています。物価も安く、新鮮な食材が安く手に入るので、生活にかかるお金は、移住前より減っています。そこはかなり大きなメリットだと思います。それと、こっちに来て、飲み会が減りました。今は数カ月に1回程度で、集まる機会が少ないのは、少し寂しい感じもします。

平日のスケジュール

<直輝さん>

6時半
起床
8時半
始業
18時
終業
19時
帰宅
夕食・家族団らん
家事・育児
0時
就寝

<晃子さん>

5時半
起床
8時半
幼稚園の送迎
9時
始業
13時
終業・家事
16時
幼稚園の送迎
家事・育児
夕食・家族団らん
21時
就寝

休日はどのように過ごしていますか?

直輝さん:家族でドライブすることが多いです。岩手県内はほとんど回っていて、間もなく33市町村制覇できそうです。

晃子さん:産直や道の駅巡りをよくしていますが、新鮮でおいしい野菜や果物がたくさん売られていて、しかも安く手に入ります。神奈川県にいた頃にはない楽しみです。特にりんごは、こっちに来てからよく食べるようになりました。岩手のりんごはとてもおいしいです。お米もおいしいです。

最近は、ケーキ屋さん巡りもマイブームです。リーズナブルでおいしいケーキ屋さんがたくさんあります。旬の果物や自然の素材にこだわっているお店が多いと感じます。

橘直輝・晃子さん

直輝さん:移住前は、ひとりで趣味のサイクリングをして過ごすこともありましたが、サイクリング道があまり整備されていないのもあって、今は辞めてしまいました。その分、今は家族で過ごす時間が増えました。子どもたちが一番好きなのはブランコなので、なんだかんだ、近所の公園に行くことが一番多いです。

雨降りや寒い冬の日など、外遊びができないときは、屋内で遊べる施設が市内には少ないので、市外のショッピングモール巡りになりがちです。岩手は近隣の市町村が近く、盛岡市まで高速で40分くらいですが、近くに遊べる施設があるといいなと思います。関東には、一時間500円くらいで遊べるような施設がたくさんありました。こちらでは、自然をたくさん楽しめますが、やはりそういった施設も必要だなと感じます。

屋内で楽しめる奥州市の施設 ~こんな施設があります!~

えさし藤原の郷(平安時代の歴史テーマパーク)

牛の博物館(日本で唯一の牛の博物館)

宇宙遊学館(遊びながら天文や宇宙について学べる科学館)

今後の生活について

直輝さん:いつまた転勤になるかわかりませんので、家を建てる踏ん切りがつかないのですが、今はこのまま奥州市に住み続けたいと思っています。学校や幼稚園が毎日楽しいと話してくれる子どもたちを見ていると、自然豊かな環境でのびのび育っていて、できる限りこの環境で子育てをしたいと思っています。ただ、心配なのは、市内の高校は選択肢が少ないことです。進学先の選択肢として、盛岡市や一関市なども幅広く考えたいと思っていて、そうなると、通学が大変だろうし、もし、タイミングよく転勤があれば、家族で神奈川県に戻ることも考えます。

晃子さん:高校進学はすごく悩むだろうなと思います。実際、高校生のお子さんがいる方から毎日駅へ送迎していると伺いました。通う学校によって、家を出る時間が違ってくるので、朝の時間管理がとても大変だそうです。

直輝さん:子どものことを抜きにしたら、このまちの雰囲気が好きだし、ここにずっと住み続けるのもありだなと思います。老後の生活を考えると、雪かきとか車の運転とか心配に感じることもあるのですが、どこに行っても悩みはあるだろうし、今はすごく良い環境で、自分たちにあっていると思っています。

7年暮らしてみて、奥州市はどう?

橘直輝・晃子さん

直輝さん:田舎の雰囲気がとても好きです。人もゆったりしていて雰囲気がよく、広い感じや都会では感じられない温かさがあります。都会のようなぎちぎちした感じがありません。子どもたちの成長にとても良いと感じています。

だからと言って、田舎過ぎず、不便さは感じない、住みやすいまちです。

公共施設やスーパーなど生活に必要な施設が集約されているのも、とても便利で住みやすいです。でも、病院が少なく、風邪を引いたくらいであればよいのですが、特殊な病気になったときは心配です。

晃子さん:何より子育て環境がとても充実しているなと思います。保育所の待機児童が少なく、短時間勤務でも入園の認定を受けることができて、短い時間でも働こうという気持ちになれました。小さい子どもを預けて働きたいお母さんにとてもやさしい環境だと思います。引っ越してすぐでも働こうという気持ちになれるのではないでしょうか。

それに、入園金がなかったり、保育料もそこまで高くないので、都会に比べ子育てにかかるお金は少なく済むと感じています。ただ、幼稚園までは手厚い支援がある印象ですが、小学校に上がると、学童が少なく、逆に時短で働きづらいと感じました。長期休みも預け先がないので、夫婦でやりくりが大変です。長期休みだけでも預かってくれるところがあるといいなと思います。

直輝さん:都会は便利ですが、人もモノも多く、日常的に何をするにも悩んでしまいます。それに比べ、ここでは、食事に行くにしても、悩まず、待たず、充実した時間の過ごし方ができていると感じます。こちらに来る前は当たり前だと思っていましたが、情報や選択肢が多すぎるのも、悩む時間ばかりが増えて大変だったなと感じています。

晃子さん:はっきりと四季が感じられ、とても良いなと思っています。夏はあまりじめじめしていないので過ごしやすく、冬は、寒さが来るのがわかるので、備えることができます。春や秋の過ごしやすい時期も長く、自然豊かで飽きません。

先輩移住者としてひとこと

私たちは、奥州市を選んで移住してきたわけではないので、地域のこともあまりわからず、知り合いもいない中で生活がスタートして、始めは不安な気持ちでいっぱいでした。でも、ひとつのきっかけで、人が集まる場所に一歩踏み出してみたら、とても居心地の良い場所が見つかりました。

引越してきたときは、不安になることも多いと思いますが、まずは、人が集まる場所に行ってみたら良いのではないでしょうか。私たちのように子育てをしている方は、子育て支援センターなどに行ってみるのも良いと思うし、趣味があれば趣味の集まりや産直巡りなども良いと思います。仕事のために来たとしても、人が集まる場所で、積極的に地域の人や同じような立場の人とコミュニケーションをとって、楽しんでください。

岩手県内、たくさんイベントがあり、人が集まる場所はけっこうあると思います。地域や四季を楽しめるものがたくさんあります。

こっちに来て、初めてクラフトマルシェにいったとき、作家さんとの話がとても楽しかったのを覚えています。ワークショップもたくさんやっているので、自分の趣味につながるかもしれません。

橘直輝・晃子さん

都会でもイベントはたくさん開催されていますが、人が多すぎて、行くだけで疲れてしまって、楽しめきれないことが多かったと感じます。けれど、ここでは十分堪能できます。

喧騒から離れてゆったり過ごせる環境は、生活にも、気持ちにも余裕が生まれ、自分時間がつくれるので、お勧めです。

ご自身で選んだ移住とは少し違う「転勤」での移住で、不安を抱えながら生活をスタートされた橘さんご家族。様々なライフイベントを迎え、状況が変化していく中で、ご家族力を合わせて乗り越えていらっしゃる姿が印象的でした。

これからも、この土地や地域の人のことを知り、積極的にコミュニケーションを楽しみながら、奥州ぐらしを存分に満喫してただきたいと思います!

取材 2025年10月